認可保育園の運営費のについて。

さて、今日は運営費のお話をしたいと思います。


認可保育園の運営費は、国・都道府県・市区町村からの補助金で99%を賄っています。ただ、ここで間違ってはいけないのは、補助金というのは100%税金ではないということです。
利用者負担の割合があり、補助金のうちおよそ10%ほどが利用者から徴収した保育料にあたります。


保育料の話はひとまず置いておいて、まずは運営費の話を進めましょう。

運営費の計算

運営費は在園している児童数により補助金を請求することができます。前回もお話しましたが、公立保育園では年度始め(4月)の児童数で、私立は毎月初日の児童数で補助金の額が決まります。
また、児童の年齢によっても補助金の単価が変わり、さらに園の定員数によっても単価が変わります。
さらにさらに、職員の平均勤続年数によっても単価が変わってきます。これは、勤続年数が上がった際の昇給に対応できるように整備されている制度です。
これらの単価は、だいたい半年に一回変更があります。ここ10年の傾向としては、年々額が下がってきていますね。

さて、東京都を例に挙げてみましょう。平均勤続年数10年以上の施設で、自治体独自の補助金も合わせ、今年はこのような単価になっています。

零歳児 国184,820円 都7,880円 区15,400円 合計208,100円
1歳児 国105,660円 都4,540円 区30,550円 合計140,750円
2歳児 国105,660円 都4,540円 区15,090円 合計125,290円
3歳児 国 47,150円 都5,820円 区16,280円 合計 69,250円
4歳児 国 39,250円 都6,200円 区16,280円 合計 61,730円
5歳児 国 39,250円 都6,250円 区16,280円 合計 61,780円

では、今度は具体的にいきましょう。認可定員91名の施設で、零歳児保育、延長保育を行っている施設の場合、以下のような補助金で運営しています。(延長保育の補助金分、および人件費については今回は計算しません。延長保育の記事のときに詳しく説明します)

零歳児 10名 × 208,100円 = 2,081,000円
1歳児 15名 × 140,750円 = 2,111,250円
2歳児 16名 × 125,290円 = 2,004,640円
3歳児 16名 ×  69,250円 = 1,108,000円
4歳児 17名 ×  61,730円 = 1,049,410円
5歳児 17名 ×  61,780円 = 1,050,260円

合計月額 9,404,560円

他にも細かな制度があって微妙に補助金が出たりしている場合もあるので、だいたい月額1千万くらいで運営していると考えてください。すると、年間だいたい1億2千万で運営していることになります。

人件費の計算

保育園の経費の80%は人件費です。一般的に、85%を超えている場合は人件費過多、70%を下回っている場合は雇用環境が劣悪とされています。認可保育園は基本的に決算書を公開しなければいけない決まりがあるので、園を選ぶ基準のひとつとして確認してみても良いと思います。

さて、認可定員の配置基準の話を覚えていますか?(詳しくは『公立保育園のメリットについて』の記事をご参考ください)上記施設の場合の配置基準で人件費を考えてみましょう。

零歳児 10÷3=3.3人
1歳児 15÷5=3.0人
2歳児 16÷6=2.7人
3歳児 16÷20=0.8人
4、5歳児 34÷30=1.1人
合計 10.9人 → 11人

平均勤務年数10年以上ですから、すべて35歳前後の保育士で構成されていると仮定します。35歳前後で職を問わず健全に生活できる額というのは個人的に月30万くらいだと思っています。手取りで26万くらいですね。すると、年収で言うと500万くらいです。社会保険料の事業主負担分や福利厚生費、事務手続き費用等はだいたい1.5倍で計算するとおおよそ何とかなるので、保育士一人750万円と考えます。

さぁ、具体的に考えていきましょう。まず、運営費の8割が人件費ですので、人件費として使える額は9,600万円になります。
保育士は11人で8,250万円です。この時点での差額が1,350万円。
年収300万円の契約の職員の人件費を450万として2人雇うと900万円ですので残り450万円。
残りのお金で時給1,000円のパート保育士を1日6時間、週5日で雇ったとして年間で156万円ですので3人くらい雇えます。
これで、保育士の合計は16人になります。
保育園を構成する職員は保育士だけではありません。看護師、調理員、事務員、嘱託医の人件費は別枠で、まぁ、何とかなるでしょー。ってくらいの補助金が出ています。園長や栄養士、用務員の人件費は事務手続き費用等から捻出します。と、いうか何とかします。

如何ですか?これが、私立認可保育園の人件費の中身です。まぁ、施設によって差異はあるでしょうが、私が健全と思える範囲の職員配置です。
正直なところ、東京都の場合独自の補助金がしっかり出ているので、まともな運営をしていれば、よっぽどのことがない限り運営難になることはないです。

何故経営難の園が出てくるのか

では、どうして運営難になってしまう園があるのか?
それは前回お話した園長の運営能力の問題もあるのですが、他にも理由があります。

ひとつは、10年以上前の給与テーブルを使用しているための人件費の過多です。現在の補助金の額は先ほどお話した通りですが、10年前はこの倍の補助金が出ていたそうです。
…倍。単純に待遇も倍なので、その給与テーブルだと年配の職員の年収が800万くらいです。うっへり。その給与の職員が残ったまま補助金の額が下がり続け、現在経営難になっているという状況です。
正規を雇うと給与テーブルは昔のままですから高給です。そのためそういった園ではパートや契約職員を低賃金で働かせます。これが、新卒保育士の平均年収190万という馬鹿げた数字を出させている理由です。
自分の4倍も給料を貰っている人が隣で働き、経験の差はともかく、仕事内容もについても同じ保育だとしたら、モチベーション下がりますよね。オマケに指導等が丁寧にあるわけではなく、感覚で覚えろという姿勢であれば尚更です。そのためすぐに辞めてしまい、保育士に嫌気がさし、別の業界に行ってしまうのです。ちょっと脱線してしまいましたが、これが保育士が不足している理由のひとつです。
補助金の額が少ないのではありません。年配職員の既得権利にしがみつく姿勢こそが若い人を苦しませているのです。これが理由のすべてではないですが、大半を占めていると私は思います。

もうひとつは、特別事業と呼ばれるいくつかの事業の採算性が悪すぎることです。
東京都で採算の取れる事業としては、延長保育、零歳児保育、11時間開所保育などが挙げられます。この3つはまともに運営していれば赤にはギリギリならないくらいの額の補助金が出ていますが、障害児保育、病児・病後児保育、一時保育などは100万円単位の赤字が出ます。それを補てんするために経営難になっているケースもあります。(詳しい話は、それぞれの事業のお話をするときにしますね)

この2つが経営難になる主な理由です。
前者は企業努力が必要ですが、後者はそもそものシステムに問題があります。その解決策については、勉強し、考えつつここに書いていきたいと思います。


さて、ずいぶんと長くなってしまいました。必要最小限にまとめているつもりなのですが、難しいですね。
本当は人件費以外の運営費のゆくえ、健全な給与テーブルの作り方、保護者が負担する保育料の自由化についてもお話したかったのですが、長いと読むほうも疲れてしまうのでまた後日に。

でわでわ。