東京都社会福祉施設サービス推進費について

さて、今回は通称サービス推進費と呼ばれる補助金制度についてお話していきたいと思います。

表題のとおり『東京都』が独自で行っている福祉に関する補助金制度です。

他の都道府県や市区町村についても独自の制度があったりなかったりします。

社会福祉施設が対象なので保育所以外の規定もあるのですが、保育所に絞ってお話します。

サービス推進費の対象施設

この補助金の特徴的なところは、運営主体が『社会福祉法人』『日本赤十字社』『公益社団法人及び公益財団法人』の保育所に限られているところです。
最近よくニュースや新聞で、保育所運営に株式会社が参入することについての意見や特集を目にしますが、例えば東京で株式会社などが保育所を建てたとしても、この補助金は受けられないということになります。ちなみに、うちの園でだいたい700万くらい毎年交付されています。700万円あれば、ちょっと足せば保育士2人くらいは雇えます。けっこう大きい差ですよね。


この差を『社会福祉法人への優遇処置』と捉えるか『株式会社への差別』と捉えるかで、ずいぶん印象は変わります。


最近は『社会福祉法人は優遇し過ぎ。株式会社は冷遇されている』という意見をよく聞きます。
以前の記事に書きましたが、保育所の運営費の9割は人件費です。
この間の産経新聞の記事では、ある社長が『社会福祉法人などは子どもの椅子をひとつ1万円で買っている。私たちは海外でまとめ買いをして椅子ひとつ千円で仕入れている。そうした企業努力で生んだ利益を配当などに回して何がいけない』というようなことを言っていました。


一見納得してしまいそうなものですが、私との考え方の相違が2つあります。


ひとつは、安くする方法があるならどうしてそれを広めないのかということ。
販売業など競争社会であれば利益を得るために安く仕入れられる仕入れ先などの情報は会社の財産ですので、他社に知られる訳にはいきません。
しかし、保育事業は公共事業、つまり独占利益を求めるのではなく皆で利益を共有する事業です。
安く仕入れられる方法があるのなら、他の保育所にもその手法を共有するのが公共の考え方です。
自分だけでなく他人とも利益を共有する助け合いの精神や考え方が福祉の精神の基本です。
その考え方があるのであれば、会社形態が社会福祉法人だろうが株式会社だろうが問題はないのです。


そしてもうひとつは、浮いた9千円をどうするのか、ということ。
先ほども話しましたが、社会福祉の考え方であれば浮いた9千円で子どもに新しいおもちゃを買ったり保育士を一人増員したり、あとは浮かす方法を他の保育園に広めるためのインフラ整備費用にあてたり。
『浮かす努力をしたのは私(会社)なのだから賞与にプラスしたり株主配当に回すのは当たり前だ』という考え方は個人(会社内)だけの利益を取る考え方になりますので、それは福祉事業ではないのです。


もちろん、そういう株式会社ばかりではありませんし、そういう社会福祉法人ばかりではありません。
中には社内の福祉事業として利益無視で部署として存続させている株式会社もあるでしょうし、園長始め幹部職員のみ高給を貪り、若い職員や子どもたちに還元していない社会福祉法人もあるでしょう。
人件費9割の保育所を運営するのは、結局のところ技術やノウハウではなく『人』ですよね。


話を戻しますが、サービス推進費の対象施設が社会福祉法人などの公益法人に限られているには、こんな理由があります。
どうか、頭の片隅にでも覚えておいていただけると嬉しいです。



さて、またしても長くなってしまったので、今回もここまでにしておきます。
次回こそは具体的な数字の話まで行こうと思います!(…でも、また脱線したらごめんなさい。。。)

それでは!

継続通園の手続きと次年度の入所申し込みについて

さて、私の住む某区では、本日(昨日から?)より継続通園の手続き書類が配布されました。
4月1日以降続けて同じ保育園に通うために必要な書類ですので、皆様必ず提出するようにお願いいたします。

継続通園のほかに、4月入園の一次募集も締切ましたね。
2月から二次募集も始りますが、待機児童が多い地域では一次の時点でいっぱいになる可能性もありますね。

ちなみに、認可保育園では市区町村が入所受け付けと審査をするので、保育園側は入園が決定するまで何歳が何人入るのかは全くわかりません。
「こうこうこういう事情なんですけど、入園できそうですか?」みたいな問い合わせをわりかし受けるのですが、残念ながら保育園側じゃわからないんですよね。

ただ、途中経過報告は貰える場合があります。
12月1日時点で、何人申し込みがありますよー、みたいなものですね。

ちなみに1月4日時点でのうちの保育園の申し込み状況は0〜2歳で7名。
待機児童?何それ?な状況です。
駅から歩いて15分みたいな立地だと、23区内とは言えこんな状況もあるわけです。

今騒がれている待機児童問題に、地域格差があることがよくわかります。

ですから、待機児童を根本的に解消しようとすると、保育園を建てることより、地域の過疎化を防ぐことの方が効果があったりします。
保育園を建てることで地域の活性化に繋がれば、なお良いんですけれどね。


…地域の活性化。


んん、じゃぁ次回は地域の活性化に貢献すると貰える運営費『サービス推進費』についてお話してみようかと思います。
今回はダラダラと抽象的な話ばっかりでしたからね。
次回は数字でお話しましょう。

それでは。

新年あけました。

今年もどうぞよろしくお願いします。


…もう11日ですがorz


保育業界、今年は話題性に富んでますね。
子ども手当しかり、子ども子育て新システムしかり、幼保一体化、幼保一元化、都市部の構造改革特区での保育所基準の融和なんて問題もあります。
情報収集しつつ、なるべく偏らないように現状をまとめていきたいですね。


今年もこんな感じでチマチマ更新していくかと思いますので、
どうぞよろしくお願いします。

退園の際の勤務状況の確認が入園に比べて厳しくない理由

ちょっと時間が空いてしまいましたが、前回の続きです。

フルタイムで働き、入れたくもない無認可の保育所に預け、必死に働いている親がいる一方で、就労状況だけで考えたら本来保育の必要のない親が保育園に子どもを預け、結果待機児童が増えている。

こんな状況に、どうして行政は対応していないのでしょうか?
それは、誰も問題提起をしないからです。

問題提起をしない理由 〜保護者編〜

まず、保護者の観点から行きましょう。
保育園に入れたい保護者としては、条件が緩いのはありがたいことです。
前回も書きましたが、一度入ってしまえば一日一時間の仕事でも預かってもらえるため、育児の負担は軽減されます。
他の保護者も、自分の子が保育園に通えている状況なら、他の方がどんな風に働いているなど別段気にもしませんよね。
また、入園待ちで待機児童を抱えている保護者は、他の方の就労状況など知る方法はありません。
と言うことは、保護者からは問題提起の声は挙がる訳がないですね。

問題提起をしない理由 〜保育園編〜

次に、保育園の観点から見てみましょう。
認可保育園では、入園・退園などの選定はすべて地方自治体などの行政が行うことになっています。
そのため、保護者がどんな就労状況であろうと、行政より退園の通知が来ない限り、子どもを預かります。
私立保育園に限って言えば、途中退園となると運営費が減額され、場合によっては死活問題になりかねないので、退園者への規定が緩いことは逆にありがたいことでもあります。
保育園側に入園選定などの契約権利があれば問題提起もできるのでしょうが、現状のシステムでは保育園から問題提起の声が挙がることはまずないでしょう。

問題提起をしない理由 〜行政編〜

さて、今までの流れを見ると、やはり問題提起をしないといけないのは行政のようです。
実際、問題提起をして親の就労状況を退園の条件に入れている自治体もあります。世田谷区なんかはそうですね。待機児童数全国4位、人数にして700人は伊達じゃありません。

では、どうして問題提起していない自治体があるのでしょうか?
推測はいくらでもできるのですが、いっそ直接聞いてみました(ぇ
職員曰く、こんな理由でした。

  1. 昔から退園時の就労状況の規定がなかったのでそのまま踏襲していた。
  2. 世の中や保育園を新設する流れになっているから。
  3. 子ども子育て新システムの対応の方が忙しいから。
  4. 入園事務を行っている職員は公立園の廃園に伴い異動してきた保育士が多々いるため、保育時間が短くなる就労時間が短い親の方がありがたいと考えているから。

(以上、誘導尋問的に聞き出した内容ですので、すべての自治体および職員がそういう見解ではないことをご理解の上お読みください)


まぁ、ざっとこんな感じでした。

地方自治体は、本当に自治体によって差がありますね。
どうせなら、子ども子育て新システムに盛り込んで、全国的に統一して貰いたいものです。

待機児童問題があるから問題になっていること。

お久しぶりです。前の記事よりかなり期間が空いてしまいました。
秋は運動会やお泊まり保育などの行事や、上半期の決算、事務処理等が多くて時間が取れませんでしたが、今日はちょっと時間が空いたので書いてみました。

今回は、ちょっと不思議なお話をしたいと思います。
通園させている親にとってはありがたい、保育園にとってもありがたい、地方自治体も困っていないし、待機児童が多いために問題になっている、という不思議さです。

それはずばり、『保育を必要とする親の就労状況』についての問題です。

保育園入園の条件

入園には、保育に欠ける子、つまり、両親が共働きであったり、片親であったり、病気や介護を必要とする人がいたり、産休・育休中であったり、家庭で保育をするのが困難と思われる子どもが入園の対象となります。
入園の審査基準はけっこう細かく設けてあり、保護者や子どもの状況に応じて点数がつきます。
点数に応じて、保育園に入園できるかどうかが決まるのです。
なので、今の待機児童が多い状況では保育園に空きがなく、短時間のパートの方や、産休明けすぐに復帰したい、これから仕事に就きたいと考えている方々には入園が難しい状況になっています。
まぁ、これがいわゆる待機児童問題ですね。

ちなみに、以下が東京都で入園待ちをしている親の就労状況です。
就労中(常勤) … 34%
就労中(非常勤・パート) … 19%
求職中 … 36%
出産・看護など … 10%
その他 … 1%
(平成22年度4月調べ)

現在就労中の方が50%を超えています。
認可保育所に入れたいけれども、家庭福祉員や認証・無認可保育所に預けている親や、親戚に預けている親がこれだけいる、ということですね。

保育園『退園』の条件

入園の条件は、皆さんわりとご存じかと思いますが退園の条件ってご存知ですか?
全国一律の基準としては、入園の状況にもあった『保育に欠ける子』ではなくなったとき、または引っ越し等、親の事情で通園が困難になったとき、退園となります。


さて、今回のお話の問題点、それは『入園の際にはフルで仕事をしていたが、途中でパート等に転職した親』の就労条件は考慮されているのか、ということです。
これは、アバウトに行っている自治体がけっこうあり、私のところの自治体も転職時の就労条件については不問になっています。
どういうことか、具体例を挙げてみましょう。


例1)
1、入園の際には、両親ともフルタイムで働いていた。
→保育に欠ける状況のため、高い優先順位で入園が決定した。
2、諸事情により母親が退職となった。
→この時点では求職中扱いになり、期限付きで通園できる。
3、仕事が決まらず、とりあえずパートで働くことに。
→両親が就労しているため、継続して通園できる。


と、まぁこういった状況であれば、退園時の就労条件が不問になっている現状はとてもありがたいことですよね。
とりあえずのパートで繋いで、就職活動を続けられます。


例2)
1、入園の際には、両親ともフルタイムで働いていた。
→保育に欠ける状況のため、高い優先順位で入園が決定した。
2、諸事情により母親が退職となった。
→この時点では求職中扱いになり、期限付きで通園できる。
3、夜7時から2時間だけ知り合いの店の手伝いをする。
→両親が就労しているため、継続して通園できる。


と、日中家にいる場合でも、保育園に通園することができるのです。
これって、みなさんはどう思います?

なぜ問題にならないのか?

現在入園待ちをしている保護者から見たら由々しき事態ですよね。
フルタイムで働き、入れたくもない無認可の保育所に預け、必死に働いている親がいる一方で、就労状況だけで考えたら本来保育の必要のない親が保育園に子どもを預け、結果待機児童が増えている。
在園児の何%がこのような親なのか、具体的な数字は出ていませんが、私の勘だとおよそ5%くらいでしょうか。
100人定員の園で5世帯、ってとこですかね。
保育園の定員数を増やして無理やり詰め込むよりも、こういった方をしっかり調査する方が良い気もしてきます。


さて、大分長くなってしまったので続きは次回に。
でわでわ。

認可・認証・無認可保育園のそれぞれの保育料と運営費について

保育施設の規制を取っ払い、自由化したとき。
認可・認証・無認可の枠はなくなります。
枠がなくなったとき、それぞれの園がどのような運営状況になるか、具体的な数字を出して見てみましょう。

認可保育園の保育料

まずは、認可保育園が子ども1人あたりの保育にどれだけのコストをかけているかを考えてみましょう。
零歳児を例に挙げてみます。認可基準には零歳児3人に対し保育士1人が義務付けられており、看護師の雇用と嘱託医との契約が必要となります。
前回の運営の話に出てきた人件費で計算すると、保育士が750万です。看護師・栄養士も同等と考えて750万ずつ。調理員は少し安めに400万。嘱託医との年間契約費用が約50万。保育士以外の人件費は全クラスで割るとして1/6で計算。零歳児を9人預かることにすると年間2,650万円の人件費がかかります。支給されている補助金の額もほとんど差異はありません。
(詳しくは「私立保育園の運営費について」を参照ください)
人件費が8割ですから、この額を0.8で割れば全体の運営費がわかります。

人件費2,650万÷0.8÷9人÷12か月≒305,000円

これが、現在零歳児1人に対してかけている費用です。現在の保護者負担はこの金額の1〜2割程度ですが、自由化する場合は全額負担になります。
『直接補助方式』では低所得者世帯に補助金が出る形ですが、果たしていくら補助されるのでしょうか。

認証保育所の保育料

次に、とある認証保育所を例に、保育料を計算してみましょう。
同じく、零歳児で計算します。
そこの保育園は零歳児を9時間預かって月53,000円で、入会金が25,000円かかります。まぁ、2年通うとしても月2,000円プラスって考えですかね。それから紙オムツとおしりふきは持参です。月3,000円分くらいですかね。月齢によっても消費量は違うと思いますが、とりあえず。
すると、保護者から徴収している利用料は58,000円です。


次に、助成金を見てみましょう。
零歳児は、定員81名以上の施設では1人あたり月額98.000円の助成金が出ています。すると、保護者負担を合わせて156,000円が零歳児の月額保育料になっています。認可保育所に比べて100,000円も安いのです。
何故こんなに差が出るのでしょうか?
理由は、認証保育所の職員配置基準にあります。

認証保育所では零歳児3人に対し保育従事職員1人が義務付けられております。保育従事職員は保育士資格を持つ人間である必要はなく、週5日1日6時間以上働いている職員を指します。ただし、全保育従事職員の6割は保育士資格者であることが義務づけられています。
また、嘱託医との契約と、調理員の配置が義務つけられています。


さて、それでは年間の運営費を見てみましょう。
零歳児9人預かるのに、156,000×9人×12か月=16,848,000円で運営していることがわかります。人件費を8割で計算すると約1350万です。
はて?この額では認可で計算していた保育士を2人も雇えません。と、なると契約職員など、低賃金で職員を雇う他ありません。
保育士400万×3+その他職員(1/6の額)150万=1350万なので、だいたいこんな感じでしょうか?
人件費400万の場合、職員の年収は約300万円。
月額給与はボーナスありで18万7千円、ボーナスなしで25万円。
20代前半の職員ならともかく、経験年数10年以上の職員はとてもじゃないですが雇えません。
そのため、認証保育園は若い先生が多い傾向にあり、昇給も見込めないので勤続年数が短い傾向にあります。

無認可保育所の保育料

さて、無認可保育所の例を挙げてみましょう。
無認可保育所には、国の規制はいっさいありません。なので、認可・認証の規制を取っ払い、自由化したとしても一番影響が少ないのが無認可保育園です。


無認可保育所保育所によってピンキリで、質も価格もマチマチです。
保育士の資格を持っている必要もないですし、マンションの一室で預かっているところもありあす。
この間、こっそり見学した無認可保育所は、零歳児の預かりが月額10万円弱で、部屋の中はギッシリベビーベッドが敷き詰められており、ハイハイするスペースもありませんでした。
ベビーベッドは5,6台ありましたが職員は一人で、何かあるときは別の部屋にいる職員を電話で呼び出していました。


零歳児1人10万円ですから、年間120万円。9人預かって1080万円。
人件費8割で860万。職員2人でみるとして1人400万。
人件費400万だと年収300万。認証と変わらないですね。
まぁ、本当に300万貰えているかは疑問ですが…。

運営費と保育料を表にまとめてみる

じゃぁ、今までの話を簡単に表にまとめてみましょう。

例)零歳児を9人預かる場合

認可保育園
運営費 3300万 人件費 2650万
職員数 保育士3人 看護師 栄養士 調理師 嘱託医
保育士年収 500万計算
月額保育料 305,000円(現在は1〜2割負担)


認証保育所
運営費 1700万 人件費 1350万
職員数 保育従事職員3人 調理師 嘱託医
保育士従事職員年収 300万計算
月額保育料 156,000円(現在は3〜4割負担)


無認可保育所
運営費 1080万 人件費 860万
職員数 職員2人
職員年収 300万計算
月額保育料 100,000円


さて、あなたはどの保育所を選びますか?
条件が違い過ぎて、比較が難しいですよね。
そして、お金があれば認可に入れたいのに、という格差を生みます。


「自由化」「効率化」と言えば聞こえは良いですが、これでは収入の少ない世帯の子どもを排除するシステムです。
いくら直接補助されようが、安い方に目が向くに決まっています。
「子どもの安全」や「笑顔」「未来」を考えるために、「認可」というシステムはお金で判断する目を覆っているのです。


今一度、保育園がどういう場所なのか、どういう場所であるべきなのか、考えてみてください。


さて、次回は…何のお話をしましょう?
特に思いつかないので、何かリクエストがあればコメントくださいナ。

でわでわ。


参考資料(PDF)
東京都認証保育所事業実施要綱
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kodomo/hoiku/n.hoikusyo/syosai/files/youkou.pdf
認証保育所運営費等補助経費
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kodomo/hoiku/n.hoikusyo/syosai/files/22ninsyoutanka.pdf

保育料および施設要件の自由化に対する問題点

さて、先日もご紹介しましたが「ミネラルウォーターと保育園」の記事では、自由化について保育料だけではなく、人員配置や施設の広さ、設備など要件をすべて廃止し、自由な設備で自由な保育料を、ということが書かれています。
http://webronza.asahi.com/synodos/2010082300006.html

抜粋すると、「元の市場価格に戻して、その後につくった法律(割当の要件、参入規制)を廃止することに尽きます。つまり、市場メカニズムが機能するように、もとに戻して自由競争をさせることこそが最善の道なのです。」と、著者は書いているのですが、私はこのことについて異議を唱えたいと思います。
「自由競争をする」ということは、子どもを預かる保育園にとって、また、預ける保護者にとって、大変危険なことなのです。

自由化したとき、何が起きるか。

自由化になれば、まず、価格競争が起こります。
先日も書きましたが、価格はサービスを選ぶ際に非常に影響力の強い要素です。どんなに良い保育を行っていても、利用料が高ければ利用できる人間は限られてきます。利用者を増やすために、利用料の「値下げ競争」は確実に起きるでしょう。
そうしたとき、『安全』や『子どもの未来』といった要素は価格に淘汰されていきます。

自由化が実際に行われた場合、認可・認証・無認可といった枠はなくなります。
そうしたとき、月額保育料20万の元認可保育園と、月額保育料10万の元無認可保育園と、どちらへ預けますか?
ほとんどの人が10万円の保育園に心を動かすことでしょう。
そうすると、20万の元認可保育園も10万に下げるための努力をします。
それが、企業努力であり、自由競争というものです。

コストダウンの方法

水など、実際にモノができる有形商品であれば、さまざまコストダウンが可能でしょう。
容器を薄くしたり、大量輸送による輸送費のコストダウン、機械化による人件費のコストダウンなど、さまざまな方法が考えられます。


しかし、保育サービスという無形商品では、コストの8割が人件費です。
人件費を削るということは、保育士の数を減らすということです。
認可保育園では零歳児3人を保育士1人で見ます。(有資格)
認証保育園では零歳児3人を常勤職員1人で見ます。(資格問わず)
無認可保育園では園によって違いますが、零歳児5人を1人で見ているところもザラにあります。
保育園において、人件費を削るということは『子どもを見る大人の目が減る』ということを覚えておいてください。


では、人件費以外のところではどうでしょか?残り2割の部分です。
5月に行っていたバスの遠足をなくしましょう。お誕生会でプレゼントしていたおもちゃをあげないようにしましょう。地域交流で夏まつりを行っていましたが、これもやめましょう。給食の材料費を削りましょう。画用紙やクレヨンなどの買う量を減らしましょう。
…悲しいですね。本当に、悲しいです。
保育園が、「子どもを預かるだけの施設」に成り下がります。

自由化したときの問題点

もう既にいくつか書いてしまいましたが、『自由化する』ということは『質を下げてでも価格を下げる』企業が出るということです。
そして、質が下がったことを馬鹿正直に言う企業はありません。
『価格』という要素が、保育園の安全性や子どもが楽しく過ごせるか?といった要素を覆ってしまいます。
先ほどの例をあげると、20万円の保育料が払える人はどちらの保育園が良いか選ぶ余裕があるでしょう。でも、10万円しか払えない人はそもそも選択肢が狭まります。そこで『直接補助方式』が出てくるわけですが、世帯収入の少ない世帯の人が仮に10万円の助成金を貰ったとして、20万円の保育園に入れるでしょうか?おそらく、ほとんどの人が10万円の保育園に入れ、残りは生活費に回すと思います。

行政システム上の問題点

他にも、直接補助するお金はいつ支給するのか?という問題もあります。
子ども手当のように3か月に1度で後払いとかでは間に合いません。また、まとめて払うことにより、低所得者の場合には保育料の支払いを滞納する可能性も出てきます。すると、毎月支給にしなければいろいろと問題が出てくるでしょう。毎月支給のシステムにした場合、どれくらいの費用(人件費や手数料)がかかるのか、という問題も出てきます。
まぁ、こっちはしっかり考えれば解決する問題ではあるので、些細なことなんですけどね。些細なことなんですが、年金や失業手当の不正受給などの問題を解決できていない現行のシステムを作っている行政では、かなりの問題が発生すると私は思います。


自由化した場合の危険性について、ご理解いただけましたでしょうか?
保育園のそもそもの目的は『子どもを預かること』ではなく『家庭で保育できない子どもを、集団生活を通して健全に育てること』です。
子どもの命は、お金には代えられません。
特に昨今、虐待の末、子どもを殺してしまう親が増えています。
保育園に預けて自分の時間が作れれば、親にも余裕が生まれるでしょう。
相談する場所や機会があれば、思いつめる人も少なくなるでしょう。
保育園は、『子どもを預かる施設』ではありません。
『子どもの成長を健やかで素晴らしいものにする』ための施設です。
そのために、子どもや親はもちろん、地域にも働きかけています。
保育園は、そういった施設なのです。


今回の話を踏まえた上で、次回は具体的数字で見ていこうと思います。
認可・認証・無認可の運営費収入、およびコストの計算。
数字から見える現状と問題についてお話したいと思います。

でわでわ。