保育料および施設要件の自由化に対する問題点

さて、先日もご紹介しましたが「ミネラルウォーターと保育園」の記事では、自由化について保育料だけではなく、人員配置や施設の広さ、設備など要件をすべて廃止し、自由な設備で自由な保育料を、ということが書かれています。
http://webronza.asahi.com/synodos/2010082300006.html

抜粋すると、「元の市場価格に戻して、その後につくった法律(割当の要件、参入規制)を廃止することに尽きます。つまり、市場メカニズムが機能するように、もとに戻して自由競争をさせることこそが最善の道なのです。」と、著者は書いているのですが、私はこのことについて異議を唱えたいと思います。
「自由競争をする」ということは、子どもを預かる保育園にとって、また、預ける保護者にとって、大変危険なことなのです。

自由化したとき、何が起きるか。

自由化になれば、まず、価格競争が起こります。
先日も書きましたが、価格はサービスを選ぶ際に非常に影響力の強い要素です。どんなに良い保育を行っていても、利用料が高ければ利用できる人間は限られてきます。利用者を増やすために、利用料の「値下げ競争」は確実に起きるでしょう。
そうしたとき、『安全』や『子どもの未来』といった要素は価格に淘汰されていきます。

自由化が実際に行われた場合、認可・認証・無認可といった枠はなくなります。
そうしたとき、月額保育料20万の元認可保育園と、月額保育料10万の元無認可保育園と、どちらへ預けますか?
ほとんどの人が10万円の保育園に心を動かすことでしょう。
そうすると、20万の元認可保育園も10万に下げるための努力をします。
それが、企業努力であり、自由競争というものです。

コストダウンの方法

水など、実際にモノができる有形商品であれば、さまざまコストダウンが可能でしょう。
容器を薄くしたり、大量輸送による輸送費のコストダウン、機械化による人件費のコストダウンなど、さまざまな方法が考えられます。


しかし、保育サービスという無形商品では、コストの8割が人件費です。
人件費を削るということは、保育士の数を減らすということです。
認可保育園では零歳児3人を保育士1人で見ます。(有資格)
認証保育園では零歳児3人を常勤職員1人で見ます。(資格問わず)
無認可保育園では園によって違いますが、零歳児5人を1人で見ているところもザラにあります。
保育園において、人件費を削るということは『子どもを見る大人の目が減る』ということを覚えておいてください。


では、人件費以外のところではどうでしょか?残り2割の部分です。
5月に行っていたバスの遠足をなくしましょう。お誕生会でプレゼントしていたおもちゃをあげないようにしましょう。地域交流で夏まつりを行っていましたが、これもやめましょう。給食の材料費を削りましょう。画用紙やクレヨンなどの買う量を減らしましょう。
…悲しいですね。本当に、悲しいです。
保育園が、「子どもを預かるだけの施設」に成り下がります。

自由化したときの問題点

もう既にいくつか書いてしまいましたが、『自由化する』ということは『質を下げてでも価格を下げる』企業が出るということです。
そして、質が下がったことを馬鹿正直に言う企業はありません。
『価格』という要素が、保育園の安全性や子どもが楽しく過ごせるか?といった要素を覆ってしまいます。
先ほどの例をあげると、20万円の保育料が払える人はどちらの保育園が良いか選ぶ余裕があるでしょう。でも、10万円しか払えない人はそもそも選択肢が狭まります。そこで『直接補助方式』が出てくるわけですが、世帯収入の少ない世帯の人が仮に10万円の助成金を貰ったとして、20万円の保育園に入れるでしょうか?おそらく、ほとんどの人が10万円の保育園に入れ、残りは生活費に回すと思います。

行政システム上の問題点

他にも、直接補助するお金はいつ支給するのか?という問題もあります。
子ども手当のように3か月に1度で後払いとかでは間に合いません。また、まとめて払うことにより、低所得者の場合には保育料の支払いを滞納する可能性も出てきます。すると、毎月支給にしなければいろいろと問題が出てくるでしょう。毎月支給のシステムにした場合、どれくらいの費用(人件費や手数料)がかかるのか、という問題も出てきます。
まぁ、こっちはしっかり考えれば解決する問題ではあるので、些細なことなんですけどね。些細なことなんですが、年金や失業手当の不正受給などの問題を解決できていない現行のシステムを作っている行政では、かなりの問題が発生すると私は思います。


自由化した場合の危険性について、ご理解いただけましたでしょうか?
保育園のそもそもの目的は『子どもを預かること』ではなく『家庭で保育できない子どもを、集団生活を通して健全に育てること』です。
子どもの命は、お金には代えられません。
特に昨今、虐待の末、子どもを殺してしまう親が増えています。
保育園に預けて自分の時間が作れれば、親にも余裕が生まれるでしょう。
相談する場所や機会があれば、思いつめる人も少なくなるでしょう。
保育園は、『子どもを預かる施設』ではありません。
『子どもの成長を健やかで素晴らしいものにする』ための施設です。
そのために、子どもや親はもちろん、地域にも働きかけています。
保育園は、そういった施設なのです。


今回の話を踏まえた上で、次回は具体的数字で見ていこうと思います。
認可・認証・無認可の運営費収入、およびコストの計算。
数字から見える現状と問題についてお話したいと思います。

でわでわ。